善意で貧困はなくせるか

前回のナミビア出張の6月初めから読み出して、8が卯末にようやく読み終えた。数年前に買った自炊したPDFを読んでいたが、もう読み終えるという頃にKindle斑が出ていることに気づいて、買いなおして読了。

この本の終わりに解説を書いている澤田先生は、この本と、バナジー=デュフロ「貧乏人の経済学」、それから「最底辺のポートフォリオ」が「開発経済学の一般向け入門書」の新三部作だとしている*1

この本では「貧乏人の経済学」と同じようにランダム化比較試験(RTC)を使った途上国での様々な分野のプロジェクトの「実験」やそこから導かれたことが書かれているけれど、「途上国の人々にプロジェクトを売り込む」という視点、「どうすれば善意を超えて行動することができるかそうすれば最善の方法を見つけることができるか」。というより実務者的な視点が強いように感じる。そのために必要な二面戦略として著者が挙げているのが、第1は「問題を理解すること」で、その理解のための道具として行動経済学や従来の経済学の考え方が出てくる。そして第2は「厳密な評価」で、ここでRTCが出てくる。

解説の澤田先生は、この本から提示された方法についての2つの課題を書いている。一つは日本の援助の強調する「自助努力」と著者の「貧困を解決したいなら、それがどういうことなのかを、抽象的な言葉ではなく現実として知る必要がある。どんな匂い、どんな味、どんな手触りかを知る必要がある」と主張している部分。最近自分も、途上国の人たちが目的を知らずして「自助努力」できるのか、と思った経験もあった。もう一つはRTCの方法論にも様々な批判がある点。RTCがインプットとアウトプットの因果関係のみに注目し、両者の間にある「内部構造」を直接観察しない「ブラックボックス・アプローチ」であるため、外的妥当性も一般均衡効果も議論することが難しいとしている。

本書の最後に描かれている7つのアイデアをまとめておく。著者が言うように、このリストが置き換えられたり、長くなってくことを望みたい。

  • マイクロクレジットではなく)マイクロ貯蓄
  • お知らせメールで貯蓄を促す(低コストで貯蓄行動を促す)
  • 前払いで肥料を売る(キャッシュがあるときに売る)
  • 寄生虫駆除(就学期間の長期化に効果)
  • 少人数グループでの補習授業(学校制度の枠外のプログラム)
  • 塩素ディスペンサーできれいな水を(各家庭に配るより水源に設備を設置)
  • コミットメント装置

善意で貧困はなくせるのか?―― 貧乏人の行動経済学

善意で貧困はなくせるのか?―― 貧乏人の行動経済学

善意で貧困はなくせるのか?――貧乏人の行動経済学

善意で貧困はなくせるのか?――貧乏人の行動経済学

*1:旧三部作は、サックスの「貧困の終焉」、イースタリー「エコノミスト 南の貧困と戦う」、コリアー「最底辺の10億人」とのこと。