新 脱亜論

著者はアジア経済の専門家であるから、当然東アジア共同体の推進論者なんだろうと思っていたが、自由貿易協定(FTA)や経済連携協定EPA)などの実利的な経済関係をこえる東アジア共同体の形成はその背後に中国の地域覇権主義が大きく存在し、日本はそれに加担するべきではないというのが著者の主張。
現在の東アジアの状況(韓国、北朝鮮、中国、ロシアの状況)は日清・日露戦争のころに先祖帰りしたかのようであるととらえ、日清・日露戦争時の外交戦略、韓国・台湾の植民地政策、中国への侵略など、私たちが知っている歴史とは少し違う観点から追いかけている。日本が大陸指向になったことが中国との戦争や太平洋戦争に至った道だとして、海洋国家として海洋国家同盟(日清・日露戦争時であれば日英同盟、戦後以降であれば日米同盟)が重要であることを解く。その文脈で、これからも対米関係を重視すべしというのが著者の主張。
確か司馬遼太郎は「坂の上の雲」で日清戦争は不可避な戦争だったが、日露戦争は避けられたかもしれないというようなことを書いていたと記憶している。著者の場合はどこまでが不可避で、どこからが避けることのできた戦争だったかという線を引くことは難しいように感じたけれど、リアリズムというものの見方では共通している。

新脱亜論 (文春新書)

新脱亜論 (文春新書)