ゼロから学ぶ経済政策

著者がいつも整理している「成長政策」、「安定化政策」、「再分配政策」をきっちりと説明している。まず、3つの政策をわけて考えることが大切。加えて、一つの政策目標には一つの政策手段を用いること(ティンバーゲンの定理)、政策目標には副作用への懸念は切り離して目標達成に最も安上がりな手段を用いること(マンデルの定理)の重要さを述べている。こういう基本的なことも実践の場では活用されていないような気がして仕方ない。「財政政策は安定化政策ではなく、再分配政策に活用した方がいいのではないか」という筆者の考えが、すっと入ってくる人は、政府の中にどれくらいいるんだろう。
ある種、この本独特だと思わせるのが再分配政策の部分。通常の経済学ではあまり立ち入らない部分だけど、頑張って立ち入り、「パターナリスティック・リバタリアン」という自由主義パターナリズム(温情主義)の間の道を紹介したり、「機会の平等と結果の平等は区別できない」という話をしたり、ベーシックインカムとそれを具体化するものとしての給付付き税額控除の話をしている。
本来は、成長政策と安定化政策は(ほとんどは技術的問題で)あまり意見の対立はなく、再分配政策のところで各自の価値観に従って議論を戦わせなければいけないのに、日本はもう20年もきちんと整理されていない状態で成長政策と安定化政策の議論を続けている。もういい加減に次の段階へ進まなければいけないと思うのだが...。