解剖 アベノミクス

アベノミクスを肯定的に捉える本はいわゆる第一の矢「大胆な金融緩和」を中心にした書き方をしているものが多い*1が、この本では第二の矢「機動的な財政政策」、第三の矢「成長戦略」についてもかなり扱っていて、財政政策では財政再建と消費増税、第三の矢では産業政策とTPPを扱っている。
財政政策の部分では欧米の「財政緊縮か財政政策復活」の議論説明しながら、日本における公共事業の景気回復策としての限界、経済成長こそが財政再建への道筋に繋がることを説明している。
成長戦略の部分では、過去に行われてきた産業政策が経済成長のためには積極的に必要なものではないということを説明しつつ、技術フロンティアから遠い途上国では1. (知的所有権を含む)所有権の保護、2. 金融の発展、3. 教育のある労働力、4. マクロ経済の安定が、技術フロンティアに近い先進国では加えて5. 生産物市場における競争と参入、6. 高等教育、7. 株式市場を通じた資金調達、8. 民主主義、9. 分権化された企業組織が必要なこと、TPP交渉を進めていくべきことを話している(TPPについては1章を割いてその反対論を検証している)。
最終章の「アベノミクスの課題とリスク」ではアベノミクスに足りないものとして再配分への配慮(所得の再配分と教育)を取り上げている。あとリスクとしては、第一の矢に関しては早すぎる出口戦略、第二の矢に関しては消費税増税と国土強靭化、第三の矢に関しては外国での政策の成功例(政策イノベーション)を導入できるかどうかというのを取り上げている。大胆な金融緩和でこれまでとは明らかに異なる結果が実体経済にも出始めているけれど、まだ先は長い。

解剖 アベノミクス

解剖 アベノミクス

*1:自分も、金融緩和が最も重要な要因であると思うのは同意。