歴史認識とは何か

自炊をして読んだが、読み終えた後にKindle版が出て、改めて自炊本にチェックした部分を読み直してみた。

著者は序章で日本の歴史教育の問題点は歴史理論を学ばないことにあるとし、史料に基づいて研究を深めていけば、普遍的に受け入れ可能な「歴史的事実」にたどり着けるというナイーブな歴史認識が広く見られるとしている。そして、これが他国との間での歴史認識問題のこじれにつながっているのではないかと指摘している。

また、日本の戦後史はイデオロギー的な束縛(「親米」や「反米」などのイデオロギーからの視点)、時間の束縛(戦後史は1945年8月から始ね、それ以前との断絶がある)、空間の束縛(日本史の中に世界が出てこない、世界史の中で日本が出てこない)の3つの束縛があり、この3つの束縛から戦後史を解放するとして日露戦争から1945年9月2日の降伏文書調印式までを扱っている。

悲惨な第一次世界大戦を経験した欧州が平和を目指した時代に、日本が(人種差別撤廃など日本の主張が取り入れない不幸もあったが)その方向に疑念を持ち、1930年代にかけて「国際秩序の破壊者」になってしまったことが15年戦争に向かわせてしまった大きな要因だった。日露戦争までは国際社会の文明国になるべく国際法を順守してきたが、次第に国際的な取り決めから外れるようになってしまった。

もう一つは政府内の機関の官僚化。政府が一丸となって戦争に向かったのではなく、各組織がそれぞれの組織的利益の最大化を目指し、それぞれの組織の顔を立てた「両論併記」と、責任を回避しようとする「非決定」を続けた結果が、開戦であった結果が戦争への道だった。

終章で著者は

戦前の日本が陥った本質的な問題が、イデオロギー、時間、空間という三つの束縛からくる国際主義の欠如と、孤立主義への誘惑であったと論じてきた

と言っていて、序章での現在の歴史認識の問題がそのまま戦前の本質的な問題とつながるといている。それから、

戦前の日本が、軍国主義という名前の孤立主義に陥ったとすれば、戦後の日本はむしろ平和主義という名前の孤立主義に陥っているというべきではないか

とも書いている。自分たちの立ち位置を確認するために、多くの人に読んでもらいたい本だと思う。