ご当地アイドルの経済学

この本は「AKB48の経済学」の続編でもあり、「「30万都市」が日本を救う!」の続編でもある。文化の経済学的分析と地方経済の分析が結びついたような本。

冒頭は田中先生と1章NGT48のリーダー北原里英との対談で第1章ではNGT48、第2章ではAKB48グループの地方展開を取り上げている。

NGT48の新潟といえば、典型的な新幹線や高速道路整備によるストロー効果の影響を受けた都市だと思うが、

しかし、ことアイドルにおいては、それとは逆の現象が起きる可能性があります。首都圏からファンを吸い寄せる「逆ストロー効果」です

という解釈や、それから「ご当地」を考える時にキーワードとなると思われる考え方、「場所の文化資本」(それぞれの地域にその地域特有の文化があって、それが新しい文化を花開かせるための土台、つまり「資本」になっていくという考え)は面白い。それから、本家のAKB48が有名になりすぎたために主力メンバーの機会費用の高騰化が起こり、もともとのAKBのビジネスモデルの適応が難しくなっているという指摘と、それを受けたAKBグループの東京以外の都市への展開。

4章は(地方だけでは十分なビジネスにならないという背景もあって)地方から東京に出てきて活動しているご当地アイドルの活動や日本のアイドル市場の推計、5章は「不況時に人気が出るが好況時には光を失う」と言われるアイドルがポストデフレ時代にどうなっていくか、という考察。

韓国や欧米ではアイドルは歌と踊りのプロだが、日本のアイドルはほとんど素人のまま観衆の前に立ち、実演しながらスクルを磨いていく。そういう中で観客と「物語の消費」をしていくものであるし、それは日本発のもので、世界のニッチ(であろう)市場に届くのではないか、というのが著者の考え。そういう風に残っていくものはアイドルの手法であって個々のアイドルではないと思うのだが、

ローカルなものがグローバルに、そしてさらにそれが再びローカル(日本や東京、新潟などの都市)に戻ってくる。このローカルとグローバルの周流にこそ、私はアイドルの創造的破壊のより強い光を見ることができると確信しています。

というところに著者のアイドルへの深い愛を感じる。

第3章はご当地アイドルの分析とはちょっと違った文脈で邦楽の歴史について書かれている。大滝詠一の「分子分母論」と普動論(音楽における右派と左派、そして中道)、阿久悠秋元康アメリカ文化からの影響、古谷経衡のジョセフ・ナイソフトパワー・ハードパワーによる戦後アメリカ文化受容の批判的考察と田中先生の異論、BABYMETALのタイラーコーエンの「創造的破壊」による解釈など、とても面白い話が多かった。