21世紀の資本

2014年の年末に紙の本を買い、2015年初めに自炊して読み出した。iPad miniの小さな画面ではこの本のサイズを読むのはちょっと辛く。もっと大きな画面で読むためにと思ってiPad Air 2を買ったが、4月末にKindle版が出たので買ってしまった。12月の年の瀬に入ってようやく読了。
この本を読む前に【図解】ピケティ入門 たった21枚の図で「21世紀の資本」は読める!『21世紀の資本』のパワー、さらには日本語公式サイトの中にあるピケティ『21世紀の資本』 訳者解説 を読んでいたので、全体の流れはわかっていた。そのため、章ごとにちびちびと読み進んだ。この本全体のメッセージからは外れてしまう章ごとに書かれていることも面白い。

章ごとに興味深かったことをメモしておく。富の再配分機能の強化が必要なことは理解できるが、「累積的な資本税」にこだわりすぎている感じはやはりある。16章は、目下の欧州経済や世界経済の解決にも資本税が有効であることを強調するために最終的に加えられたのだろうが、今までの議論とちょっと別物のような感じもある。

第1章:所得と算出

  • 資本主義の第1基本法則 資本/所得比率(β)は、国民所得の中で資本からの所得の占める割合(α)とα=r× βの関係を持つ(rは資本収益率)。
  • 生産の世界的な分布と世界の所得分配(所得分配は産出の分配よりも格差が大きい)

第2章:経済成長−幻想と現実

  • 世界の経済成長の確認 経済成長は人口増加に伴う部分と経済的な要因に伴う部分があるが、生活水準の改善に貢献するのは後者のみ。
  • 世界のGDP成長は、1950年代までは2%を下回る水準だったが、1950–90年には4%に上昇した。しかしその後低下を始め、1990–2030年には3.5%、その後も徐々に低下して2070–2100年には1.5%(1820–1913年の水準)まで低下する釣鐘型になる。

第3章:資本の変化

  • イギリスとフランスにおける資本の国民所得比とその構成(農地、住宅、その他国内資本、純外国資本)の変化。1700年から1910年くらいまで国民所得の700%程度であった資本が2つの大戦期に200–300%程度まで減少し、第2時代戦後徐々に回復して2010年には600%くらいまで戻っている。
  • 資本構成では農地が減少してほぼなくなり、住宅とその他国内資本が増加、純外国資本は1810年頃から徐々に大きくなったが、2つの大戦期を挟んで縮小した。
  • イギリス、フランスとも公的資本の比率はとても小さく(国民所得の100%以下)、民間資本がほとんどだった。

第4章:古いヨーロッパから新世界へ

  • 第3章の分析をドイツ、米国、カナダで行っている。ドイツの資本の国民所得比とその構成の変奏は、イギリス、フランスとよく似ている。しかし、資本の国民所得比は2010年で400%程度で、イギリス、フランスよりも低い。
  • 米国、カナダは「新世界」だったので土地資源が豊富、資本蓄積がない。そのため資本の国民所得比は1770年には300–400%程度で、その後増加、減少を経て2010年にも400–450%程度。
  • 米国の奴隷(1800年には人口の20%、1860年には人口の15%)を資本とすると、米国の1770年の資本の国民所得比は500%に上昇する。

第5章:長期的に見た資本/所得比率

  • 資本主義の第2基本法則 貯蓄率が高いほど、そして成長率が低いほど、資本/所得比率(β)は高くなる β=s/g
  • 資本/所得比率がヨーロッパにおいて2つの大戦期前の水準に近い水準にまで回復し、欧州の資本/所得比率が米国・カナダの水準より高い理由は経済成長率(特に人口増加率)が低下したためである。
  • この章ではこれまでの取り上げていた国に加え、日本、イタリア、オーストラリアを加えた分析を行っている。日本の資本/所得比率は1990年には800%まで上昇し、現在は600%程度まで低下している。これはバブルの影響。イタリア、オーストラリアの資本/所得比率は他の(ドイツを除く)欧州・米国の動きに類似。
  • 世界の平均的な資本/所得比率を推計・シミュレーションすると、2010年には450%であるが、2100年ごろには700%まで上昇すると思われる。

第6章:21世紀における資本と労働の配分

  • 国民所得における資本・労働分配の分析。資本主義の第1基本法則α=r× βから資本/所得比率(β)と資本の平均収益率(r)がわかれば国民所得に資本所得が占める割合(α)がわかる。
  • 歴史的データの残っているイギリス、フランスの18世紀から資本分配率は18世紀後半から19世紀を通じて約35–40%で、20世紀半ばに20–25%に下がったが、20世紀後半から21世紀前半に再び25–30%に上昇している。資本の(観測される)平均収益率は、18、19世紀には5–6パーセントで、20世紀半ばに7–8%に上昇し、その後、20世紀後半から21世紀前半には4–5%に下がっている。この観測される平均収益率から投資ポートフォリオ管理の非公式コスト(富の管理に費やした時間の価値など)を差し引いた純粋な収益率は、イギリス、フランスともに18世紀から21世紀にかけて中央値では年間4–5%、一般的には年間3–6%の水準を維持してきた。顕著な長期的上昇/下降トレンドはない。
  • 資本収益率は、純粋な完全競争がある場合は、資本の限界生産性にちょうど等しくなる。第一に技術(資本が何に使われるか)、第二に資本ストックの豊富さ(過剰な資本は資本収益率を引き下げる)が資本の収益率を決める。
  • 5章で分析したように、資本/所得比率は長期的時上昇傾向であるが、資本による労働の長期代替弾力性が1を超える(コブ=ダグラス型の生産関数でない世界)とすれば、それによって資本収益率が低下するとは限らない。実際の世界主要国(イギリス、フランス、ドイツイタリア、カナダ、オーストラリア、米国、日本)の1975年以降の国民所得における資本所得シェアを見れば、そのような世界に見える。
  • 第II部(3〜6章)の主な教訓はまちがいなく、歴史的に見ると資本とその所有からくる所得フローの重要性を確実に減らす自然の力は存在しないということ。

第7章:格差と集中−予備的な見通し

  • 所得格差は三つの要素に分けられる:労働所得の格差、所有資本とそれが生む所得の格差、2つの相互作用
  • 所得格差を比較すると、最初に気づく規則性は、資本の格差は労働所得の格差よりも常に大きい。資本所有権(そして資本所得)の分配は、常に労働所得の分配よりもより集中している。
  • この本の分析では時間的にも空間的にも離れた社会の格差を論じるために、「階級」ではなく、十分位、百分位でグループ分けする。
  • この本の分析では、ジニ係数などの総合指標や十分位比ではなく、総所得や国府における十分位、百分位のシェアを示す分布表を用いる。分布表は総合指標よりも各階層の位置を掴みやすくし、十分位比よりも配分の全体像が見やすい。合わせて、国民経済計算手法との制帽性も高い。

第8章:二つの世界

  • フランスの事例:20世紀のフランスにおける格差の減少は、不労所得生活者の減少と高額資本所得の崩壊で説明できる。グズネッツの理論のような格差縮小(特に賃金格差縮小)の一般性のある構造的なプロセスは長期的には作用していないように見える。
  • 所得格差縮小の原因は、二度の世界大戦における破壊、大恐慌が引き起こした破産、この時代に成立した公共政策(家賃統制、国有化、国債からの不労所得のインフレによる消滅)が大きい。
  • フランス社会は、トップ百分位において「不労所得者社会」(1932年)から「経営者社会」(2005年)に移行してきた。トップ百分位の主要所得が不労所得から労働所得に変化してきた。不労所得生活者の9割が没落して経営者より下に下がった。経営者が不労所得生活者を追い越したのではない。
  • 所得階層トップ十分位の世界は労働所得が優勢な9パーセントと、資本所得がだんだん重要になる上位1パーセントに分かれる。
  • トップ十分位の国民所得シェアの変化(フランスと米国):1900–10年には米国のシェア(40%以上)がフランス(45–50%)より低くより平等であったのに、1920年代には所得格差は急激に拡大し(50%以上)、フランス(40–45%)よりも高い値になった。その後、大恐慌期と第2次対戦中には米国、フランスとも所得格差は縮小した。1950年から1980年にはアメリカのシェアは最も小さくなった(30–35%)が(フランスは33–38%)、1980年代から所得格差は急上昇した(2000年代には45–50%、フランスは33–34%)。
  • 米国の場合、トップ10%はトップ1%、その下の4%、さらにその下の5%に分けることができる。格差拡大の大半の理由は1%に起因するもの。

第9章:労働所得の格差

  • 8章でのアメリカとフランスでの所得と賃金の格差の変遷のうち、労働所得の格差を他の先進国や新興国に広げている。
  • 最低賃金と賃金体系によって賃金格差を減らすことは容易ではなく、賃金格差を減らす最善の方法は、教育と技能への投資であり、それは取り組みである。しかし、一方で、労働市場のルールが賃金決定に決定的役割を果たしている。
  • 1980年以降の米国及びアングロ・サクソン圏(イギリス、カナダ〜オーストラリア)ではトップ百分位、千分位の所得のシェア増加が顕著。これは、スーパー経営者の所得の増加と考えられるが、限界生産性や技術と教育の競合の理論では説明できないもの。
  • 1900年から1910年にはヨーロッパ諸国は新世界(アメリカ、カナダ、オーストラリア)よりもトップ百分位への国民所得の集中が見られ、不平等であった。しかし第一次大戦後、アメリカの方がヨーロッパよりも不平等な社会となり、その傾向が続いている。日本もヨーロッパ社会に似た動きをしている。
  • 新興国の経済格差は、1980年代以降に象出してきているが、米国よりは不平等度は高くない(百分位の国民所得シェア)。
  • ここ数十年の発展途上国(特に中国とインド)の非常に高い公式成長率は、ほぼすべて生産統計に基づくもの。所得の伸びを家計調査データから測定しようとすると、報告されているようなマクロ経済の成長が見られないことも多い(成長のブラックホール)。
  • 多くの国際機関(特に世界銀行)や政府が格差の評価に利用する唯一の情報源は家計調査だが、これは明らかに富の分配に対して偏った誤解を招きかねないもので、まちがった安心感を与えてしまう。

第10章:資本所有の格差

  • 富の格差とその歴史的変遷をフランス、イギリス、米国、スウェーデンの4カ国で分析する。
  • フランスの場合、1810年以降1910年ごろまでトップ10%の富のシェアは80–90%、トップ1%の富のシェアは45–60%だった。1910年以降はともに低下をし、1970年代以降はトップ10%の富のシェアは60%程度、トップ1%の富のシェアは20%強程度となっている。イギリス、スウェーデンとも同じような傾向が見られる。
  • ヨーロッパの3カ国とも人口のほぼ半数を占める「世襲中流階級」が出現し、富の3分の1から4分の1を得ている。それは、トップ10%が失った富とほぼ等しい。
  • 米国の富の格差を見ると、1800年前後の格差はそれほど高くない(1970–80年のスウェーデンよりも低い)。しかし、19世紀を通じて富の集中が続き、1910年代にはトップ10%が富の80%、トップ1%が富の45%を所有していた。1910年から1940年まではともにシェアを下げたが、1940年以降はトップ10%が富の65–70%(近年は増加)、トップ1%が富の30–35%を所有している。
  • 米国とヨーロッパのトップ1%、トップ10%のシェアを比較すると、1960年頃にともに米国とヨーロッパとの逆転が見られ、米国の方がヨーロッパよりも富の格差が大きくなった。
  • 第一次世界大戦以前のほぼすべての社会で富が超集中していた第一の原因は、これらが低成長社会で、資本収益率が経済成長率に比べ、ほぼ常に著しく高かったこと。
  • 紀元後から2100年までの世界の資本収益率(税引き前)と経済成長率を推計すると、資本収益率は4.5%から5%の水準であるが、経済成長率は1820年より前は1%以下、その後、1950–2012年に4%近くまで上昇するが、今後は再び低下し、2050–2100年には1.5%程度となると思われる。
  • 一方、資本課税を反映すると、1913–50年の資本収益率は1%程度、1950-2012年の資本収益率は3%強となり、経済成長率の方が高くなると思われる。
  • r>gの状況を変えるためには、思い切った税率の資産課税が必要。フランス革命以降、長子相続ではなく兄弟の平等な相続が行われてきたが、それは1910年までの富の格差の拡大には影響を与えられなかった。このような相続の方法ではなく、インパクトのある資産課税が必要。

第11章:長期的に見た能力と相続

  • フランスを中心に富の蓄積のパターン(労働と貯蓄・相続)の変化を検証する。
  • フランスの年間相続フローは、1820年から1900年間では国民所得の20–24%を占めていた。それが1920–50年には4–8%に低下したが、近年になって再び上昇し、現在では12–15%程度になっている。
  • 相続・贈与フローの大きさは、資本/所得比率、死亡率、生存者一人あたりの死亡時の平均財産の比率の積になる(by=μ x m x β )。資本/所得比率は第5章で見たとおりU地形を描いて近年は上昇傾向。また、死亡率は減少し、生存者一人あたりの死亡時の平均財産の比率は上昇しているが、両者を合わせた効果は前者のマイナスを後者が相殺している。
  • 1950–60年代に資産を相続するはずだった人たちはそれまでの数十年間のショック(戦争、インフレなど)で贈与・相続した資産は少なかったが、その後の世代は高齢化の中で資産を蓄積することができた、と考えることができる。
  • この先の相続フローの推計も経済成長率と税引き後の資本の収益率から推計することができる。GDP成長率1.0%、資本の収益率5.0%と仮定すると、相続フローの国民所得比は1880–1900年ごろと同水準の24%まで上昇する。GDP成長率1.7%、資本の収益率3.0%と仮定すると、16%程度(現在とほぼ同水準)となる。
  • 相続財産の話をフローからストックに移して考えると、1850–1910年のフランスでは相続財産がそう民間財産の80–90%に相当した。このシェアは1910年から1970年までの間に45%までに低下したが、それ以降上昇に転じ、2010年には65%まで上昇している。上記2つのシミュレーションを当てはめると、g=1.0%、r=5.0%の場合は2070年には相続財産のシェアは90%、g=1.7%、r=3.0%の場合、相続財産のシェアは80%となる。
  • 最新の数値によれば、2010年のフランスでは貯蓄によって蓄積した富が民間資本のわずか3分の1なのに対し、相続財産は約3分の2を占めている。この傾向が続けば、相続財産のシェアは今後数十年増え続けて、2020年までには70パーセントを超え、2030年代には80パーセントに近づくのはほぼ確実。
  • 少数の非常に裕福な不労所得生活者がいる社会から、そこまで裕福ではない不労所得生活者が多数いる社会へと移行した。1900–1920年浮かれの人々のうち2%程度が最も賃金の低い50%の労働者の生涯賃金に相当する相続を受けたが、1970–80年生まれの人々ではその割合は12%まで上昇している。
  • フランス以外では、イギリスとドイツの統計で相続フローがフランスの歴史的な推移と似た傾向を示している。

第12章:21世紀における世界的な富の格差

  • 多くの経済モデルは、資本収益率は、その人の富の大小にかかわらずすべての所有者にとって等しいと想定する。でもこれはまったく確実な話ではない。
  • 「フォーブス」誌の資産ランキングを分析すると、1980年代以来、世界の富(成人一人あたり世界平均資産、2.1%)は平均して所得(成人一人あたり世界平均所得、1.9%)より少し早めに増加しており、最大の富は平均資産よりはるかに急速に増加している(トップ1億分の1資産保有者、6.8%、トップ2000万分の1資産保有者、6.4%)。
  • 世界のトップ2000万分の1の財産シェアは、1987年から2013年の間に0.3%から0.9%に上昇し、世界のトップ1億分の1の財産シェアは、同期間に0.1%から0.4%に増加している。
  • 起業家は不労所得生活者になりがちだ。特に平均余命の延びとともに、世代交代だけでなく、起業家本人の世代でも不労所得生活が始まるようになった。そしてその財産はその子に相続され、財産はさらに増加していくケースがある。これが世界の最大の富に対する年次累進課税の主な理由づけとなる。起業家の活力と国際的な経済の開放を維持しながら、急成長の可能性があるプロセスを民主的にコントロールする唯一の方法がこのような税だ。
  • 資本収益はしばしば、本当に起業家的な労働(経済発展には絶対に不可欠な力)、まったくの運、そして明白な窃盗の要素を分かちがたく結びつけたものだというのが実情だ。
  • 英国の大学基金の運用の例:規模の大きな基金ほど年平均実質収益率(キャピタルゲイン、税、管理費用、インフレを差し引く)が高い。
  • インフレの影響は複雑で多次元的だが、圧倒的多数の証拠が示している通り、インフレが招く再分配は、主に最も裕福でない人には不利益に、最も裕福な人には利益になる。一般に望ましい方向とは正反対。
  • 現在の億万長者たちは、世界の総民間財産のおよそ1.5%を所有しており、ソヴリン・ウェルス・ファンドがさらに1.5%パーセントを所有している。億万長者が21世紀後半までに世界の富の決定的に重要な部分(世界の資本の10–20%)を持つことがないように、ソヴリン・ウェルス・ファンドもそのようなシェアを持つことはないだろう。しかし、ソヴリン・ウェルス・ファンドは例えば石油の売り上げの一部が新たにファンドに組み込まれるようになっており、2030–40年には世界の資産に占めるシェアが現在の2–3倍になっているような可能性はある[目下の資源安の状況で、このような状況はかなり起きにくくなっているのではないか?]。
  • 世界の資本/所得比率は1950年の250%から2010年には450%に増加しており、中位シナリオでは2100年までには700%まで増加すると考えられている(第5章)。その世界シェアを見ると、現在は3分の1程度のシェアを持つアジアが2100年には全体の半分のシェアを持つのではないかと推測される。例えばん資本/所得比率が他の大陸より低いアフリカ大陸に中国からの投資資金が流入することでアジアのシェアが増加することが考えられる。
  • 中国やソブリン・ウェルス・ファンドが世界の富の多くを持つというシナリオは考えにくいが、ある国において億万長者や大富豪がその資本を所有するという可能性はある。
  • 先進国の純外国資産ポジションは1980年にはほぼ均衡していたが、2010年には世界のGDPの約4%の赤字となっている。貧困国のポジションもないナスであり、これから推計すると世界の金融資産のうち、タックス・ヘイブンにあって報告されていないものは世界GDPの8%から10%に相当すると考えられている。

第13章:21世紀の社会国家

  • 富の格差の過去を一掃して構造を一変させたのは、相当部分が20世紀の両世界大戦だった。しかし、現在、消えたと思われていた富の格差は歴史的な最高記録に迫り、すでにそれを塗り替えたかもしれない。果てしない格差スパイラルを避け、蓄積の動学に対するコントロールを再確立するための理想的な手法は、資本に対する世界的な累進課税
  • 2008年の危機が大恐慌ほど深刻な崩壊を引き起こさなかった主な理由は、先進国の政府や中央銀行が金融システム崩壊を許さず、1930年代に世界を奈落の縁まで押しやった銀行破綻の波を避けられるだけの流動性を作り出すことに合意したため。このような現実的な金融財政政策は、1929年の大暴落の後にほぼいたるところで主流となっていた「清算主義」教義とはかけ離れたもので、このおかげで最悪の事態は避けられた。
  • この章では、20世紀における経済と社会における政府の役割の変化をレビューし、富の生産と配分に対する政府の役割を確認する。
  • 先進国(スウェーデン、フランス、イギリス、米国)では、1870年から1910年間では総税収は国民所得の10%以下だった。しかしその後増加し、1950年には28–35%間で増加した。その後は国ごとに違った動きを見せ、スウェーデンは55%、フランスは50%、イギリスは40%、米国は30%となっている。1980年以降はどの国も総税収のシェアの増加が止まっている。
  • 政府税収が増加した分は教育と保健医療支出(国民所得の10–15%)、代替所得(年金や失業保険)と移転支払い(家族給付、公的扶助)(国民所得の10–15%)に支払われている。
  • 代替所得と移転支払いの多くは年金。高齢者の貧困は、1950年代まで慢性的なものだった。教育と保健医療へのアクセスと並んで、公的年金は20世紀の財政革命が可能にした三つめの社会革命である。
  • 現代の所得再分配は、金持ちから貧乏人への所得移転を行うのではなく、万人にとって平等な公共サービスや代替所得、特に保健医療や教育、年金などの分野の支出をまかなうということ。
  • 1980年以降、先進国の経済成長のスピードは低下し、総税収の国民所得シェアの増加は止まったが、そのような状況のもとで社会国家の役割は否定するのではなく、現代化が必要。全体を語るのはこの本の範囲をはるかに超えてしまうので、ここでは教育、特に高等教育への平等なアクセスの問題。そして低成長世界におけるペイゴー方式の年金制度の未来について述べる。
  • 高等教育への不平等アクセスは米国だけでなく、21世紀において、社会国家すべてが直面しなくてはならない最も重要な問題のひとつであるが、まだ有効な制度は発明されていない。まずは透明性を高めることから始めるのが大切。
  • 現在の年金はペイゴー(世代間移転)方式であり、人口の高齢化や成長の減速を考えると積み立て方式に移行すべきと考えるかもしれないが、その移行期間をどうするかという問題、積み立て方式における資本収益率の変動も問題もある。
  • 新興国、途上国においても先進国のような社会国家に向かうかどうかは分からない。サブサハラ・アフリカや南アジアの平均税収水準は1970–80年の15%から1990年代には10%に低下している。南米、北アフリカ、中国の同水準は15–20%で、先進国が同程度ん経済発展段階だった時の水準よりも低い。
  • 新興国や途上国のこのような状況の責任の一端は先進国と国際機関にもある。脱植民地化のプロセスでの混乱、1980年以降のウルトラ自由主義(財政規律の徹底)。最近の研究によれば、1980–90年の最貧国における政府歳入減は、相当部分が関税の減少によるもの。

第14章:累進所得税再考

  • 課税における20世紀の大イノベーションは累進所得税の考案と発展だった。この制度は、20世紀における格差低減に重要な役割を果たしたが、今では国際税制競争によりその存在が脅かされている。また、累進所得税が導入されたのが両大戦期間の緊急時で、この制度の基盤が一度も明確に考え抜かれていなかったこともその存在が脅かされている理由となっている。
  • 同じことが累進的な相続税についても言える。これは20世紀における第二の主要な税制イノベーションであり、ここ数十年で攻撃を受けているものである。
  • 先進国(米国、イギリス、ドイツ、フランス)の最高所得税率を見ると、第一次世界大戦前はほとんどゼロだった。それが第一次世界大戦開始とそれ以降は25–80%となり、第二次世界大戦時には60–95%の水準に達した。第二次世界大戦後も1970年まではそのような水準が続いた。
  • 同じく米国、イギリス、ドイツ、フランスの最高相続税率を見ると、1920年まではゼロから20%の水準だった。それが、米国、イギリスでは1920年から1940年にかけて20%から80%の水準にまで上昇し、ドイツ、フランスでは同時期に15–25%の水準となった(ドイツは第二次大戦中に60%まで例外的に引き上げた)。1970年以降は米国、イギリスは最高税率を徐々に引き下げ、フランス、ドイツでは少し引き上げ、現在では4か国とも30–45%の水準となっている。
  • すべての先進国を見ると、1980年から現在までの最高限界所得税率の低下は、トップ百分位が国民所得に占めるシェアの同時期における増加と密接に関係している。
  • 最高限界所得税率の引き下げとトップ所得の上昇は、サプライサイド理論の予測に反し、生産性を刺激しなかったようだし、少なくともマクロレベルで統計的に検出できるほど生産性を刺激しなかった。
  • 私たちの推計によると、先進国で最適な最高税率はおそらく80パーセント以上になる。

第15章:世界的な資本税

  • 前の2章で注目した社会国家と累進所得税は、グローバル化した世襲資本主義の規制のために将来的にも中心的な役割を果たさねばならない。
  • 世界的な資本税を提案したい。これは、個人の富に対する累進的な年次課税、つまりそれぞれの個人が支配するあらゆる種類の資産(不動産、金融資産、事業資産)の純価値に対して課税するもの。
  • 資本税の主要な目的は、社会国家の財源をまかなうことではなく、資本主義を規制すること。狙いは、まず富の格差の果てしない拡大を止め、第二に危機の発生を避けるために金融と銀行のシステムに対して有効な規制をかけること。この二つの目的を果たすため、資本税はまず民主主義的、金融的な透明性を促進しなればならない。誰が世界中でどんな資産を持っているかが明確になる必要がある。
  • あらゆる種類の資本への課税開始することによって、同時に人々が資本資産を資本資産を財務当局に報告するような仕組みを作る。所得に関しては所得税の導入時に同じことをやっており、不動産や金融資産の一部についても既に財務当局に申告する歴史はある。
  • 銀行などの金融機関のデータの共有も必要だが、それも既に一部ではできている。
  • 何世紀もかけて構築された国民国家は、今日のグローバル化した世襲資本主義にルールを貸して矯正するには小さすぎる。ヨーロッパ諸国は単一通貨をめぐって団結できたのに、税金の分野ではほとんど何も実現できていない。
  • このような資本勢に考えられる税率は、例えば、純資産100万ユーロ以下だったらゼロ%、100–500万ユーロだったら1%、500万ユーロ以上だと2%という税率を考えると、この税金はEU加盟国の2.5%くらいの人に影響して、ヨーロッパのGDPの2%相当額の税収をもたらす。
  • 資本勢以外の方法は保護主義や資本統制を導入することが考えられるが、これらは資本税よりも不十分なものだし、導入により新たな問題を起こす可能性も高い。

16章:公的債務の問題

  • 富裕国の公的債務がいまや平均で国民所得の1年分ほどになっており、1945年以来見たこともない水準の負債をかかえている。一方で、新興経済は公的債務はずっと低い(平均でGDPのほぼ30パーセント)が、これは公的債務の問題が、絶対的な富の問題ではなく、富の分配の問題だということを示している。
  • 巨大な公的債務を大幅に減らす方法は三つ(資本税、インフレ、緊縮財政)あり、これらを組み合わせることもできる。民間資本に対する例外的な課税が、最も公正で効率的な解決策*1。それがだめなら、インフレが有益な役割を果たせる。
  • 公正の面でも効率性の面でも最悪の解決策は、緊縮財政を長引かせることだが、ヨーロッパは現在、まさにこの手法を採っている。
  • 民間資本に対する例外的な課税は、公的債務削減に貢献できるし、富の再分配も果たすことができる。一方、インフレによる調整は、公的債務削減に貢献するが、富の再分配に貢献する時とそうでないとキッアあり、粗雑で厳密さに各ツールである。
  • 欧州においては、国家なき中央銀行、国家なき通貨を作り出してしまったことが目下の経済問題の背景にある。各国の通貨主権の喪失は、各国が低利での借り入れが保証されることで補われるべきであり、こうした矛盾を克服する唯一の方法は、ユーロ圏諸国(少なくともその気がある諸国)が公的債務をプールすること。
  • 各国の公的債務や財政赤字を救うツールとして塁審資本課税を考えることができる。
  • 今後最も重要な問題の一つは、財産の新しい形態や、資本への新たな民主コントロール形態を開発すること。このような資本の民主的統制の各種形態を大きく左右するのは、参加者それぞれへの経済情報の提供。


みすず書房の公式サイトへのリンク。
21世紀の資本 - みすず書房
ピケティあんちょこ、あげよう。 - 山形浩生の「経済のトリセツ」
『21世紀の資本』訳者解説――ピケティは何を語っているのか / 山形浩生×飯田泰之 | SYNODOS -シノドス-
ピケティ来日講演まとめ(2015.01) - Togetterまとめ
ピケティブームの真実とは? 18世紀のルソーから始まった「不平等との闘い」を総ざらいする 『不平等との闘い ルソーからピケティまで』 (稲葉振一郎 著)
The Economist explains: Thomas Piketty’s “Capital”, summarised in four paragraphs | The Economist
Wealth inequality: NIMBYs in the twenty-first century | The Economist
‘No Empirical Evidence’ for Thomas Piketty’s Inequality Theory, IMF Economist Argues - Real Time Economics - WSJ
Twitterで収集したピケティ関連のツイート
Yoji Sakakibara(@sakak)/「ピケティ Piketty」の検索結果 - Twilog

21世紀の資本

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*1:これは自説を擁護しすぎているように感じる