ベーシックインカム 国家は貧困問題を解決できるか

田中秀臣先生の主宰する「2015年心に残る経済書ベスト20」で1位になった本書を、2015年もあとわずかという時期にようやく読了。
2015年3月に日銀審議員になり、Wedgeのコラムや本はしばらくは読むことができなくなるかもしれない、と思いつつ読んだ。
ものごとをスパッと斬る原田節は健在。例えば、

働けるのに働かないで生活保護給付を受けている人、子どもが高額所得者なのに生活保護給付を受けている人に国民は批判的だが、生活保護制度そのものに反対しているわけではない。だから、BIを給付すべきだという主張に反対する人は本来いないはずだと私は考える

という具合。
第1章では、日本社会のこれまでの安心は、会社が担ってきたがそれを維持することが難しくなってきたこと、子供が資本財から消費財に変化してきたなどの社会の変化や、日本の格差の状況(とてつもなく豊かな人がいるのではなくて貧しい人が多いこと、OECDの中ではもともと中位の格差の国だったこと)、生活保護のアクセスの問題を取り上げて、これらの問題に対応するためにBIを導入することを提案している。
第2章はBIの思想(功利主義リベラリズムリバタリアン)と歴史による整理(例えば、フリードマン負の所得税)。「BIと富の正当性」での近衛の富の略奪の部分の話はちょっと横道に逸れた感じではあるけれども、面白い指摘だった。
第3章はBIは実現のための試算。原田先生は20歳以上は一月あたり7万円(年間84万円)、20歳未満は一月あたり3万円(年間36万円)で年間96.3兆円の予算が必要としている。それで所得控除のBIによる置き換えや、BIによって廃止できるもの(社会保障給付、公共事業費・中小企業対策費・農業予算・民生費・地方交付税交付金の一部)で代替財源が準備できるとしている。
原田さんの分析は経済学のツールを使ってスパッと斬るので、ある種、身も蓋もない印象を持つが、この本の根底には990万人の貧困世帯をどのようにコストをかけずに効率的に救っていくかという温かみがあると思う。