総理
面白くて一気に読んでしまった。現役首相の政策形成に関する話をこんなふうに読むことができることがすごい。今年春のクルーグマンの国際金融経済分析会合のメモでも安倍内閣の政策決定過程を垣間見ることができたが、この本は経済(2014年秋の消費税増税の延期)だけではなく、対米外交(オバマ政権とのやりとり)もリアルに扱っている。
著者は、
反安倍勢力も、あるいは親安倍勢力も、安倍政権がどのように国家運営に向き合い、何を悩み何を目標としているのかをほとんど知らず、知ろうともしない人が大多数である。事実に基づかない論評は、批判も称賛も説得力を持たない。結果として、安倍政権に対して繰り返される論評の多くが、特定のイデオロギーを支持し特定の政治集団に属する勢力による、プロパガンダと断定されてもしょうがない中身となる
と言っている。それはその通りだと思う。合わせて、安倍晋三という個人の考えていることと、安倍政権を異なるものとして考えなければいけないと思うけれど、そういうふうにできていない中での批判も多いと思う。かといって私自身も安倍政権の政策を最適なものと考えているわけではなく、
今のところ安倍のような、国家像を明確に提示するリーダー候補はほかに見当たらない。どういう絵を描くか以前に、絵描きのライバルがいないのだ。安倍の絵のトーンが気に入らなくても、ほかの絵を選ぶ選択肢がないというのが今の日本の政治状況なのである。
という著者の言葉がそのまま当てはまるような状態なんだろう。
田中先生が
『日本会議の研究』はここ数年の疑問には答えてくれた。どんな組織なのか。でもそれ以上ではない。あれ読んで安倍政権のことはほとんどわからない。むしろいま出ている『総理』が結構驚く内容。日本会議の一億倍ヤバい組織があることがよくわかるw。まあ、財務省のことだけど
とツイートされているけれど、確かに第3章に書かれている財務省の活動は凄まじいものがある(よくこの文章のまま出版できたなと思う)。でもその一方で、
だからこそ、財務省は多くの主要な政治家を籠絡し、懐柔し、恫喝して目的を果たしてきた。しかしそれは一概に批判されるべきことではない。そうした財務省の習性と能力を把握した上で、そのエネルギーを正しい方向に振り向け、国益を追求し実現するのは政治家の仕事なのである。
と書いている。第4章の対米外交のところでもそうだけれども、単純な追随ではなく、自らの考えに基づく方針を持ち、それに向かうように資源を動員すること、少なくともこの20年くらいは(もしかしたらもっと前からずっと)できていなかった、単純な追随できたことからの脱却することを見ているのかもしれないと思った。
- 作者: 山口敬之
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